福岡高等裁判所 昭和56年(ラ)10号 決定 1981年3月10日
抗告人
藤原花子
相手方
小山アサ子
外五名
主文
原審判を取り消す。
本件を大分家庭裁判所に差し戻す。
理由
抗告人は主文同旨の裁判を求めた。その理由とするところは別紙抗告理由書記載のとおりである。
(当事者について)
まず、職権をもつて判断するに、一件記録によれば、共同相続人である相手方乙野フサ、同乙野幸子はいずれも未成年者であつて、乙野太一が親権者父として右相手方両名を代理し、本件遺産分割手続に関与していることを認めることができる。しかしながら、親権者が共同相続人である数人の子を代理して遺産分割の手続に関与することは、かりに親権者において衡平を欠く意図がなく、その代理行為の結果数人の子の間に利害の対立が現実化されていなかつたとしても民法八二六条二項所定の利益相反行為に当たるから許されない。従つて、本件においては前記未成年者の一方につき特別代理人を選任してこれを代理させたうえ、遺産分割の手続に関与させなければならないにもかかわらず、その方法をとらなかつた原審判はこの点において違法である。
(遺産の範囲について)
抗告人は、大分市大字牧字白滝六四二番四田二五一平方メートルの土地が遺産に含まれるのに原審判がこれを遺産から除外しているのは不当であり、また、同市大字萩原字上東町七二六番宅地287.60平方メートルの土地は、もともと抗告人の所有に属するのに、原審判がこれを被相続人から相手方藤原とおるに贈与したものと認定したのは不当であると主張する。
そこで検討するに、一件記録によれば、大分市大字萩原字上東町七二六番の土地については、原審判が認定しているとおり、被相続人がこれを昭和四〇年四月一八日に相手方藤原とおるに贈与したことを認めることができ、この点の抗告人の主張は理由がない。しかしながら、同市大字牧字白滝六四二番四の土地については、被相続人が昭和四八年五月二九日にこれを大分県新産都市開発局萩原土地区画整理部に提供したためこれが現存しないとの原審判が認定しているような事実を認めるべき資料は全く存在しないばかりでなく、却つて被相続人名義のまま飛地に仮換地され、相手方藤原理においてこれを占有使用していることが認められる。そして、本件においては同藤原理の右土地所有権の取得が問題となるところ、一件記録中の調査官廣田蓉子作成の調査報告書(添付されている委任状―記録六七丁―を含む。)によれば、被相続人は同日付で相手方藤原理宛に「右土地は貴殿に売却譲渡しておりますので今後県萩原地区土地区画整理事業に対する交渉その他一切について委任します。」との委任状を作成していることが認められるが、他方、相手方藤原理、同藤原とおるらは右調査官の調査時に右土地は相手方藤原理へ贈与されたも同然である、あるいは贈与されたとみなすべきであると主張し、調停時及び審判移行後の審問時においても相手方藤原とおる、同藤原理らは、右土地は被相続人が生前土地区画整理のため飛換地として県に提供したものであるから遺産から除外すべきである旨主張したにとどまつていたことを認めることができ、この点に関する相手方藤原理の主張を明確にし、他に新たな資料がない以上、右土地は相手方藤原理に贈与されたと認めることは相当ではなく、遺産に含まれていると考えるべきである(もつとも、その評価にあたつては後に徴収又は交付さるべき清算金を控除又は加算すべきことは当然であり、原審判が遺産としている大分市大字牧字白滝六四二番一の土地の評価にあたつてもこの点は同様である。)。
そうすると、抗告人において、右土地は大分県に提供したものである旨の相手方藤原とおるらの主張を認め、右土地が遺産に含まれない旨を審判期日において陳述したとしても、右土地が遺産から除外される筋合はないのであるから、原審判はこの点においても不当であるといわねばならない。
(特別受益について)
職権をもつて調査するに、申立人及び相手方らはいずれも被相続人から特別受益を得ているところ、原審判は、各特別受益財産を認定しながら(もつとも、相手方藤原理が大分市大字牧字白滝六四二番四の土地を飛換地により被相続人から取得した旨認定しているなど、その事実認定には首肯し得ない部分がある。)、相続開始時における評価によつてこれを持ち戻し、具体的相続分の算定を全くすることなく、原審判が認定した遺産を単純に各相続人の法定相続分に従つて分割しているのであつて、原審判はこの点においても不当であり、取り消されるのを免れない。
以上説示したところによれば、本件は原審をして右の各点を是正せしめたうえ、更に審理を尽くさせるのが相当であることが明らかであるから、原審判を取り消したうえ、本件を原裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。
(美山和義 前川鉄郎 川畑耕平)
〔抗告理由書〕
一 原審判は、審判理由第四遺産の範囲において、大分市大字牧字白滝六四二番四の土地は、遺産の範囲から除外する旨示し、遺産の範囲から除外することについて抗告人も同意したというが、そのような事実はなく、「六四二番四」の土地は被相続人名義で残つており、しかも現実に換地がなされているのであるから、遺産の範囲から除外したことは失当であり、又該土地を相手方理の特別受益として扱うことも失当である。
二(1) 大分市大字萩原字上東町七二六番の土地は、もと農地であり被相続人が申立外○○○から賃借していたのを、抗告人が買受けるため、被相続人に買受方を依頼し、抗告人が金三万円を出して、抗告人のために買受けてもらつたのであり、農地法の関係上被相続人名義にしたのであり、本来、該土地は抗告人の所有に属するものである。
(2) 原審判は、「贈与契約書」に七二九番の土地が重複して記載されていることをもつて「明らかに七二六番の土地の誤記」である旨即断しているが、重複記載即七二六番の土地の誤記との合理的理由とはなり得ない。